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札幌地方裁判所 昭和53年(レ)2号 判決

札幌市中央区宮の森三条三丁目二三番地白樺荘

控訴人(選定当事者) 榊原真利子

〈ほか三名〉

(控訴人四名の選定者は別紙選定者目録のとおり)

札幌市中央区大通東一丁目二番地

被控訴人 北海道電力株式会社

右代表者代表取締役 四ツ柳高茂

右訴訟代理人弁護士 田村誠一

同 広岡得一郎

同 河谷泰昌

同 斎藤祐三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

〔控訴人ら〕

一  原判決を取消す。(但し、選定者高橋敏明、同中橋勇一については、同選定者らの勝訴部分を除き原判決を取消す。)

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

〔被控訴人〕

主文と同旨

第二当事者の主張

〔請求原因〕

一  被控訴人は、一般電気事業を営む会社であるが、控訴人ら及び選定者らに対し、同人らとの間の別表にそれぞれ記載された契約種別の電気供給契約(以下、供給契約ということがある。)に基づき、同各供給期間、使用電力量欄記載のとおり電気を供給した。

二  被控訴人と控訴人ら及び選定者らとの間に前記供給契約が成立した年月日は別表記載のとおりである。

三  被控訴人の控訴人ら及び選定者らに対する右のような電気の供給は、電気事業法一九ないし二一条に基づき、通商産業大臣の認可を受け、所定の公表義務を履践した電気供給規程(以下、供給規程ということがある。)によって定められた供給条件によってされており、右供給に対する電気料金については、被控訴人が昭和四九年五月二一日通商産業大臣から認可を受け同年六月一日から実施した電気供給規程(以下、新規程という)及び昭和五一年六月一五日同大臣から認可を受け同年六月二六日から実施した電気供給規程(以下、第二新規程という)によって定められ、控訴人ら及び選定者らに対する前記供給について右新規程及び第二新規程に基づき料金を算定すると別表各料金欄記載のとおりである。

四  よって、被控訴人は控訴人ら及び選定者らに対し、別表各料金合計金欄記載の電気料金の内、同各未払合計金欄記載の電気料金と別表各記載の右料金の全部又は一部(内金)に対する別表各記載の遅延損害金の始期以降右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

〔請求原因に対する認否〕

一  請求原因一の内、被控訴人主張の契約種別により電気の供給を受けた事実は認め、その余は不知又は否認。

二  同三の事実は否認する。

〔控訴人らの主張〕

一  被控訴人と控訴人ら及び選定者らの間には、新規程に基づく料金の適用は、控訴人ら及び選定者らとの交渉継続中はもとより、被控訴人が料金値上げの必要性その他控訴人ら及び選定者らの質問に明確な回答をするまでは留保するとの明示又は黙示の合意があった。従って、被控訴人の本件請求は履行期が到来していない。

二  控訴人ら及び選定者らは、昭和五〇年一月以降被控訴人に対し、新規程適用以前の料金(以下、旧料金という。なお、(第二)新規程適用後の料金を新料金ということがある)で支払う条件で電気の供給を受ける旨申し込んでおり、被控訴人は、それを承知で電気の供給をしてきたのであるから、被控訴人は、控訴人ら及び選定者らの右旧料金で支払う旨の契約の申込に対し承諾の意思表示をしたものであり、昭和五〇年一月以降は、旧料金で支払う旨の契約が成立していたものである。

三  契約は、契約内容に明示的又は黙示的に含まれる条件が誠実に履行されないときにはその効力を失うものであるところ、被控訴人は、伊達火力発電所の建設をすすめることにより、公害を発生させ又は発生させる可能性が高いだけでなく、地域の生活者の生活の激変を起こさせ、住民を不安に陥いれており、これは被控訴人の安全・良質な電気を供給する義務に反するものであるから、事情変更の原則により新規程による料金(新料金)を払うに足る事情が失われているので新料金を内容とする契約は信義則に反し無効である。

四  仮に、新料金を内容とする契約が有効であるとしても、被控訴人は安全で良質な電気の供給のために料金を使用する義務を負っているところ、右金員使用の適正化のためにはその使途の公表が不可欠であり、新料金の支払は右使途の公表と同時履行の関係にあるから、被控訴人が金員の使途を公表しなければ、控訴人ら及び選定者らは、新料金の内旧料金を超える部分の支払を拒絶する。

五  控訴人ら及び選定者らは、「電気料金を旧料金で払う会」を結成し、被控訴人と昭和五〇年一月以降昭和五一年六月に至るまで約七回にわたり話合い又は交渉を続けてきたが、被控訴人はこれを一方的に打ち切り、控訴人ら及び選定者らに対し本件訴を提起した。控訴人ら及び選定者らは、消費者権の行使として、電気の不買運動にかわる手段として、旧料金での支払を行いつつ被控訴人の企業経営に対してその方針と実態を問いただす話合いを持たせるべく運動を続けてきたのであり、これ以外に被控訴人との話合いを実質的に行う手段が存在しないのであるから、被控訴人の本件訴は、被控訴人と「電気料金を旧料金で払う会」との話合いによる問題解決という合意に反するもので許されない。

六  新規程については、その認可前の昭和四九年五月七、八日札幌において公聴会が開かれた。しかし、右公聴会は、処分の基礎となるべき具体的事実についての正確な資料が開示されておらず、その分析究明に基づく事実の適切な把握に立って意見を述べることが不可能であり、被控訴人は北海道全域の供給を独占しその料金値上げは全道に及ぶにもかかわらず、公聴会は道内でただ一か所札幌で開かれただけであり、陳述人も賛否各五〇名、傍聴人も限られた人数に過ぎず、広く一般の意見を徴したとはいいえず、陳述内容についても通産局が恣意的に選びメモした意見だけを中央に報告したにとどまっていたから、このような公聴会手続は、重大かつ明白な瑕疵があり、電気事業法一〇八条に違反しているから、新規程は無効である。

七  電気供給契約においては、契約内容の実態的合理性、とりわけ道内に住む生活者たる全ての一般需要家の生活の安定や環境保全の要請に照して適正であるかどうかということが、この契約の効力要件たる社会的妥当性の内容となる。前記のごとき社会的妥当性を欠く伊達火力発電所建設に関る被控訴人の行為に鑑み、伊達周辺住民懐柔資金の原資を提供することとなる新料金をその内容とする(第二)新規程による電気供給契約は社会的妥当性を欠くこととなり無効である。

八  被控訴人は、第二新規程認可に際しての昭和五一年四月一五日岩見沢市での民間公聴会において「今後は地元への迷惑料的なものも含めて一切の寄付行為をしない」と確約したのに、その後伊達パイプライン建設に際し七・二億円を迷惑料として支出し、岩内原発、留萌火力においても研究費等の名目で数百ないし数千万円にのぼる寄付行為を行っている。かかる行為は消費者に対する重大な背信行為であると共に、この確約は被控訴人と消費者が新規程による供給契約を締結する際の契約条件と解すべきであるから、被控訴人は一方的に右条件を破ることによって、契約の当事者たる資格を失ったものである。よって、消費者たる控訴人ら及び選定者らは、当然にかかる行為に対し異議を唱え、そのような支出に相当する料金の支払いを留保する権利を持つものである。

九  我国では昭和四三年に消費者保護基本法が制定、施行されたが、同法の制定は憲法との関連で理解すべきものであり、消費者の権利はそのみなもとを憲法一三条、二五条にもつものといえる。そして、消費者保護基本法五条は、消費者の役割として「消費者は経済社会の発展に即応してみずからすすんで消費生活に関する必要な知識を修得するとともに、自主的かつ合理的に行動するように努めることによって、消費生活の安定及び向上に積極的な役割を果すものとする」とのべている。右規定にのっとるとき、消費者が「必要な知識」の公開を企業に請求することは、消費者としての基本的な権利の行使に属する。

よって、料金値上げについての納得のいく説明を求め、その説明を十分に受けるまで料金の値上げ分を留保する、すなわち契約の変更を認めない権利を、消費者たる控訴人ら及び選定者らは有するものである。

一〇  電気事業法一九条二項一号によれば、認可の要件の一として「料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」と規定されている。ところが、(第二)新規程による電気料金には、伊達火力発電所建設についての被控訴人の立地計画がいい加減であったことにより生じた借入金の利子支払、工事費の増大等による出費、右発電所建設に際し被控訴人の支払った漁業補償、漁業振興資金、福祉対策費等合計約二三・五億円、パイプライン建設に際しての迷惑料七・二億円等が料金原価に算入されているが、右は違法な行為による支出であるから、これを料金原価に算入したことは前出「適正な原価」にはあたらないものが含まれていることになり、かかる料金体系は無効である。

〔控訴人らの主張に対する被控訴人の反論〕

一  控訴人らの主張一については、控訴人らの主張のごとき明示又は黙示の合意が成立した事実を否認する。一般電気事業者たる被控訴人は、電気事業法二一条本文によって、同法一九条一項の認可を受けた供給規程以外の供給条件により電気を供給することを禁じられており、控訴人ら主張のごとき合意を行うことはそもそも許されない。

二  控訴人らの主張四については、控訴人らの主張する金員の使途公表なるものは、双務契約たる電気供給契約から生ずるものではなく、また公平の観点よりみても使途公表と電気料金支払とが同時履行の関係となる理由はない。

三  控訴人らの主張五については、七回にわたって控訴人ら及び選定者らの全部又は一部と被控訴人社員との間において面談がされたことは認めるが、何らの結論も出ていないのであって、実体法上訴訟法上のいかなる意味においても合意成立の事実は存しない。

第三証拠《省略》

理由

一  被控訴人の請求原因一項の事実中、控訴人ら及び選定者らが、被控訴人から、別表各記載の契約種別により電気の供給を受けたことは当事者間に争いがなく、同二項の事実は控訴人らの明らかに争わないところであり、以上の事実のほか、《証拠省略》によれば、被控訴人が一般電気事業を営む会社であること、被控訴人は、控訴人ら及び選定者らに対し、別表各供給期間及び使用電力量欄記載のとおり電気を供給したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  《証拠省略》によれば、被控訴人は、電気事業法一九条一項の電気供給規程について昭和四九年五月二一日通商産業大臣の認可を受けて変更(同年六月一日実施)し(新規程)、昭和五一年六月一五日同大臣の認可を受けて変更(同年六月二六日実施)し(第二新規程)たこと、控訴人ら及び選定者らについての検針日が別表各供給期間欄記載の終期の年月日であったこと、右電気供給規程によれば、契約種別・従量電燈乙種の電気料金の算定方法は、次のとおりであったこと(括弧内の金額は第二新規程に基づく)

1  ひと月の基本料金及び使用電力量により、基本料金は、契約電流一〇アンペアについては二二〇円(二六〇円)、同二〇アンペアについては四四〇円(五二〇円)、電力量料金は、最初の一二〇キロワット時までの一キロワット時につき一一円七二銭(一四円六五銭)、次の八〇キロワット時までの一キロワット時につき一三円七五銭(一八円七〇銭)、これを超える一キロワット時につき一五円二〇銭(二〇円八五銭)として算出する。

2  料金はひと月毎算定され、検針日から次の検針日までの検針期間の電力量計の読みにより使用電力量を定め、右検針日に料金支払義務が確定し、右支払義務確定の翌日から起算して二〇日以内に支払われる場合は、右1の基準により算出される料金(これを早収料金という)によるが、右期間経過後支払われる場合には、早収料金額の五パーセントの割合による割増金が翌月料金に加算され、そして当月料金は、支払義務確定の日の翌日から起算して五〇日経過した場合その翌日から履行遅滞になる。

3  被控訴人は、電力供給規程の料金に地方税法による電気税を加算して徴収することとし、地方税法四九〇条によれば、電気税の税率は百分の五であるが、同法四九〇条の二によれば、同一の需用場所において使用する電気の一月の料金が二〇〇〇円以下である場合には、電気税を課することができないと定めている。

4  第二新規程については、その実施の日から昭和五二年三月三一日までの期間の料金は、第二新規程によって算定された料金の九八・二パーセントとする。

5  使用電力量の単位は一キロワット時とし、その端数はキロワット時以下一位で四捨五入し、料金合計額の一円未満の端数は切り捨てられ、検針期間の途中で供給が休廃止された場合、契約が終了した場合、契約内容の変更に伴い料金の変更があった場合、検針期間の日数が検針期間の始期に対応する月の日数に対し、五日を上回りまたは下回る場合には使用日数に応じ日割計算をし、供給規程が変更された場合には、新旧料金の切替は日割計算に準じて行われる。

これらの事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

三  控訴人らは、被控訴人の控訴人ら及び選定者らに対する電気の供給について新規程及び第二新規程による電気料金の支払義務を争うので、この点につき検討する。

供給規程に関する電気事業法の諸規定によれば、一般電気事業者は電気の料金ばかりでなくその他の供給条件についても供給規程を定めて通商産業大臣の認可を受けるべきものとされ、供給規程の変更についても同様であり(同法一九条一項)、一般電気事業者は、一九条一項の認可を受けた供給規程以外の供給条件により電気を供給してはならない(同法二一条)とし、右認可を受けた供給規程について公表義務を課し(同法二〇条)、これらに違反した者に対しては罰金に処することとしている(同法一一八条三号、一二〇条二号、一二一条)。また、一般電気事業者は、その供給区域内における需要者との間の供給契約について応諾の義務がある(同法一八条一項)とされている。右規定から判断すると、電気事業法は契約自由の原則を大幅に排除し、一般電気事業者と一般需要者との間の供給契約については、もっぱら供給規程の定めによるべきことを強制しているものと解される。以上によれば、右供給規程は、一般電気事業者とその供給区域内の現在及び将来の不特定多数の需要者との間のすべての電気供給契約について適用される普通契約約款としての性質を有するものの、約款に従う旨の契約の相手方の明示又は黙示の同意により初めて拘束力を生じることになる通常の約款とは異なり、供給規程は電気事業法によって契約当事者がこれと異なる内容の合意を結びえない一般的拘束力を有するものと解することができ、したがって、供給規程の変更が認可されることにより、当然に従前の電力供給契約の内容も変更されるものである。

なお、《証拠省略》によれば、被控訴人の供給規程には、新規程前の供給規程(昭和二九年九月一三日認可、同年一〇月一日実施、同四〇年一一月一一日一部変更認可、同年一二月一日一部変更、以下、「旧規程」という)時代より、いずれもその規程中に「規程が認可を得て変更された場合需用家との契約関係は変更後の規程による」旨の定めのあることが認められる。

そして、右のほか前記一、二の事実を総合すると、被控訴人と控訴人ら及び選定者らとの間には、供給条件につき、旧規程時代には旧規程の定めによる電気供給契約が成立し、あるいは昭和四九年六月一日以降の新規程時代には新規程の定めによる電気供給契約が成立(旧規程時代からの契約は新規程の定めどおりに変更)し、またあるいは昭和五一年六月二六日以降の第二新規程時代には新規程時代からの契約は第二新規程の定めどおりに変更されたというべきである。

そこで、前記認定の新規程及び第二新規程の料金算定方法に基づき、控訴人ら及び選定者らが被控訴人から供給を受けた前記認定の電気量に対する電気料金を計算すると、その合計金額は、控訴人山中哲也が金五一二四円、同加藤敬が金五八七三円、選定者中橋勇一が金三万一六四一円、同山城一郎が金五〇四二円であるほかは、別表各料金合計金欄記載のとおりであり、また、新規程及び第二新規程によれば、支払期限も別表支払期限欄各記載のとおりである。

四  控訴人らは、主張一において、被控訴人と控訴人ら及び選定者らの間には、新規程に基づく料金の適用は、交渉継続中及び被控訴人が料金値上げの必要性その他控訴人ら及び選定者らの質問に明確な回答をするまでは留保するとの明示又は黙示の合意があったと主張するところ、《証拠省略》によれば、

1  控訴人ら及び選定者らの一部は、新規程の実施以降被控訴人に対し、新料金の支払を拒否し料金値上げ理由の説明を求めたため、被控訴人は話合いに応じることとし、昭和五〇年一月三〇日、同年三月二六日、同年七月一一日、同月三〇日、同年一一月二六日、昭和五一年六月一〇日等数回にわたって話合いの機会が持たれた(控訴人ら及び選定者らの全部又は一部と被控訴人社員との間において七回にわたって面談のあったことは被控訴人も自認するところである)こと

2  被控訴人は控訴人ら及び選定者らの一部に対し、昭和五〇年六月二六日及び同年一二月二〇日ころ電気料金を新料金で支払うよう、支払のない場合は電気の供給停止もあり得る旨の催告状を送付し、昭和五一年五月二〇日控訴人ら及び選定者らに対し、電気料金について支払命令の申立をしたこと

3  この間控訴人ら及び選定者らは、旧料金で電気料金を支払おうとし、被控訴人の営業所へ持参したり、郵送したり、銀行振込をしたが、被控訴人は右旧料金による電気料金の受取を拒絶し、郵送されたものは返送し、銀行口座へ振り込まれた金員は控訴人ら及び選定者らに一部送り返していたこと

4  被控訴人は、新料金不払いを理由に、昭和五〇年一一月ころ控訴人榊原真利子に対し、一度送電を停止したことがあり(もっともすぐに再開した)、控訴人山中哲也らに対しては昭和五三年一月一九日以降昭和五四年二月二三日まで送電を停止したこと

が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、被控訴人は、昭和五〇年一月以降控訴人ら及び選定者らとの話合いの機会を持ったことはあるが、それと平行して同人らに対しあくまで新料金による電気料金の支払を求めていたものであるから、未だ控訴人ら主張の合意があったと認めることはできず、他にこれを肯認するに足りる証拠もない。また、仮に控訴人ら主張のごとき合意があったとしても、前記のとおり一般電気事業者と需要家は、供給規程に拘束され、これと異なる条件で電気供給契約を締結することは許されず、供給規程が変更された場合は、需要家は電気供給契約を解約しない限り、一般電気事業者から供給された電気に対し、変更された供給規程に基づく電気料金の支払義務があると解されるから、控訴人らの主張は失当である。

五  控訴人らは、主張二において、被控訴人は、控訴人ら及び選定者らの旧料金で支払う旨の申込みに対し電気の供給をしたから、昭和五〇年一月以降は旧料金で支払う旨の契約が成立したと主張するところ、《証拠省略》によれば、新規程及び第二新規程には、需要家が料金を早収期間経過後三〇日を経過してなお支払わない場合には、被控訴人はその需要家について電気の供給を停止することがある旨の規定があることが認められ、前記認定事実と総合すると、被控訴人は需要家が料金を支払わない場合に常に必ず電気の供給を停止しなければならないものではなく、また、控訴人ら及び選定者らは料金値上げ理由の説明を求めて旧料金払いを行っていたものであり、被控訴人はこれに対し新料金の支払を求めながら電気の供給を行ったもの(もっとも、その後供給停止を実行したことも前記認定のとおりである。)であるから、被控訴人の電気の供給をもって、被控訴人と控訴人ら及び選定者らとの間に旧料金で支払う旨の契約が成立したということはできない。

六  控訴人らは、主張三において、被控訴人は伊達火力発電所の建設をすすめることにより安全・良質な電気を供給する義務に違反したから事情変更の原則により新料金を内容とする契約は信義則に反し無効であると主張する。しかしながら、前記のとおり電気供給契約の内容は供給規程に拘束されるものである以上、供給契約が事情変更の原則又は信義則の適用により無効となることは原則としてないと解されるから、控訴人らの主張は失当である。

七  控訴人らは、主張四において、新料金の支払は被控訴人の金員の使途公表義務と同時履行の関係にあると主張するが、電気供給契約から控訴人ら主張の同時履行関係が生ずると解することはできないから、控訴人らの主張は採用できない。

八  控訴人らは、主張五において、被控訴人の本件訴は、被控訴人と控訴人ら及び選定者らが結成した「電気料金を旧料金で払う会」との間の話合いによる問題解決という合意に反するから許されないと主張するところ、前記四1ないし4の認定事実によれば、控訴人ら主張の合意があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

九  控訴人らは、主張六において、新規程認可に際しての公聴会手続には重大かつ明白な瑕疵があるから新規程は無効であると主張するところ、右は新規程についての通商産業大臣の認可処分の無効を主張しているものと解されるが、右認可処分のごとき行政処分が無効であるというためには、処分要件の存在を肯定する行政庁の認定に重大な瑕疵があり、その瑕疵が外形上客観的に明白な場合でなければならないところ、仮に控訴人らの主張するような事実が存在したとしても、一、応電気事業法一〇八条所定の公聴会が開かれている以上、右事実の存在の故に右新規程の認可に重大明白な瑕疵があったとただちにいうことはできないので、控訴人らの主張は採用できない。

一〇  控訴人らは、主張七において、伊達周辺付近住民懐柔資金の原資を提供することとなる新料金を内容とする電気供給契約は社会的妥当性を欠き無効であると主張するが、電気供給契約は前記のとおり供給規程に拘束されるから、契約が社会的妥当性を欠くことを主張することはすなわち供給規程が社会的妥当性を欠くことを主張する趣旨と解され、それは結局右供給規程に対する通商産業大臣の認可処分の無効を主張するものと解されるが、控訴人ら主張事実をもってしても、右認可処分に重大明白な瑕疵があったということはできないから、控訴人らの主張は失当である。

一一  控訴人らは、主張八において、被控訴人は地元への寄付行為を一切しないと確約したが、これは新規程による電気供給契約締結の条件であるところ、被控訴人は右確約に違反したから、控訴人ら及び選定者らは新料金の支払を留保する権利があると主張するが、前記のとおり電気供給契約は供給規程に拘束され、それ以外の条件を付加して契約を締結ないし解釈することは原則として許されないから、控訴人らの主張は失当である。

一二  控訴人らは、主張九において、消費者たる控訴人ら及び選定者らは、消費者権に基づき料金値上げについての納得のいく説明を受けるまで電気供給契約の変更を認めない権利を有すると主張するが、電気事業法一〇八条、一九条によれば、供給規程の変更については、公聴会を開き、広く一般の意見をきかなければならず、そのうえで通商産業大臣の認可を受けなければならないから、供給規程の内容については、右認可までの間にその内容が審査されるものであり、右認可後は前記のとおり電気供給契約は変更された供給規程に拘束されるから、控訴人ら主張のごとき権利があると解することはできない。憲法一三条、二五条、消費者保護基本法五条の規定から、控訴人ら主張のごとき権利がただちに発生するということもできない。控訴人らの主張は失当である。

一三  控訴人らは、主張一〇において、(第二)新規程の料金原価には、伊達火力発電所建設のための多額の出費が含まれており、適正な原価とはいえないから、かかる料金体系は無効であると主張するところ、右は(第二)新規程の認可処分の無効を主張するものと解することができるが、仮に控訴人ら主張の出費が料金原価に含まれているとしても、それだけでは(第二)新規程の認可処分に前記九で述べた意味での重大明白な瑕疵があるということはできないから、控訴人らの主張は失当である。

一四  以上によれば、被控訴人が電気料金の未払金として請求する別表各記載の未払合計金欄記載の電気料金額は、いずれも前記認定の控訴人ら及び選定者らの支払うべき電気料金合計額の範囲内であり、被控訴人の控訴人ら及び選定者らに対する別表各記載の未払合計金額と右金額の全部又は一部(内金)に対する支払期の後である同各記載の遅延損害金の始期から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払請求を認容した原判決は相当であるから、本件控訴は失当としてこれを棄却し、民訴法三八四条、九五条、九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官古川正孝 裁判官 島田充子 裁判官 富田善範)

〈以下省略〉

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